【夏休みの研究旅行】ウールマイスター『ひつじくん』に訊く!まだまだ知らないウールの世界

  • by SHOPSTAFF

今年も夏がやって来ましたが、去年までとは全く異なる夏ですね。お盆連休にも関わらず、故郷への帰省や家族でのご旅行を断念せざるを得ない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
代官山スタッフも5日間のお盆休みを頂戴しておりますが、やはり自粛の夏。「せっかくの休み、どうしても旅行したい・・!」という気持ちは拭いきれませんでした。
そこで、MITSUBOSHI 1887では【夏休みの研究旅行】と題し、「私たちが今まで知らなかった羊の世界を研究しに行こう!」と計画。
(オンライン上で)羊のプロにお話しを伺ったり、作品に触れたりしながら羊の世界を旅行してまいります。
「研究旅行」なので、夏休みの課題も捗ってしまうかもしれません。気ままにふらっと出かけるように、リラックスした気持ちで同行していただけたら嬉しいです。

 

今回はもっとウールのことを知るため、ウールマイスター『ひつじくん』こと、泉州羊毛工業株式会社 代表取締役社長今井 康隆さまに、代官山スタッフの佐藤 汐里(以下:汐)と山田 桜子(以下:桜)がお話を伺ってまいります!

 

  1. 羊の毛も部位ごとに分けられている?!
  2. 同じ平均繊度(マイクロン)でも柔らかさが違うのはなぜ?
  3. どうして「ウールはチクチクする」?
  4. ウールは湿気を吸う?!
  5. 今使っている化粧品や着ている衣服、なんの素材?

 

    1. 羊の毛も部位ごとに分けられている?!

    ▲コロナ前の冬に来日したオーストラリア人のご友人に向け、初の英語でのセミナー「ひつじくんセミナー in English 」をした時の様子。今井さんが、30年前にオーストラリアのメルボルンで下宿して勉強していた頃の下宿先の方で、今でもご出張の際には度々会うこともあるのだそう!

     

    (汐)
    本日はお話伺えることを楽しみしておりました!はじめに、『ウールマイスター』というのは?

     

    (ひつじくん)
    今から10年ほど前、2010年ごろから「ウールマイスター」と名乗っています。自分で作った役職です。(ちゃんと商標登録もしているのですよ!)もう10年近く羊の被り物をして、ウールについて語っています(笑)。
    私たちの会社は、明治23年の創業以来、ずっとウール・カシミヤの毛を中心とした動物の毛を糸にするという仕事をしてきました。私たち始め、すべてのスタッフは、ある意味「ウールバカ」です。その会社を代表する私を表す言葉として登録しました。

     

    (汐)
    そうなのですね!どのようにしてウールの道を究められ始めたのですか?

     

    (ひつじくん)
    オーストラリアにあるウールの仕分けをする学校で勉強し、(更新が必要なので今は期限が切れてしまいましたが)国家資格もとりました。
    今は機械で数値をみて判断できるようになった作業もありますが、当時は目と触り心地で判断しなくてはならなかったため、ひたすらサンプルを仕分けして先生に見てもらうことの繰り返しでした。
    学校は都内にあったので現地実習の際は、田舎の牧場に移動し、毛刈りや仕分け、梱包までウールに関する色々なことを経験し学びました。

     

    (汐)
    経験でしか培うことのできない知識だったのですね。そもそも、なぜ仕分け作業が必要なのでしょうか?

    (ひつじくん)
    焼肉店でよく目にする牛や豚の部位と同じように、羊の毛も部位ごとに分けられており、仕分けをすることで牧場の収入が最大限になるのです。良いも悪いも混ざった状態では、その後の過程で扱いづらくなり、業者側が「低い値段でなら買い取ってもいいよ」となってしまうのです。

     

    (汐)
    なるほど!部位ごとによっても値段は違うのですか?

     

    (ひつじくん)
    はい。それも焼肉と同様ですね。高いところもあれば、低いところももちろんあります。部位によって値段が変わる理由としては、長さ汚れやすさなどが挙げられます。
    例えば、お腹の近くなら羊がご飯を食べて腹が膨れると地面についてしまうので汚れやすく、お尻近くなら排泄物によって汚れてしまいます。
    しかし、背中部分は気候による傷みが少なく良い毛がとれます。

     

    (桜)
    気候による影響を受けるということは、飼育されている国によって変わってくるのですか?

     

    (ひつじくん)
    原料の多くは、オーストラリアやニュージーランド、南アフリカ、南アメリカ、イギリスなどから仕入れています。
    柔らかいのはオーストラリアのタスマニア産のものや、メルボルンにあるビクトリア州のもので、その理由は気候と羊の種類がマッチしているという点にあります。例えばウィントンウールなどですが、細い羊毛は少量しか取れない貴重なものです。

     

    (桜)
    気候と羊の種類がマッチすることが重要なのですね!

     

    2. 同じ平均繊度(マイクロン)でも柔らかさが違うのはなぜ?

    (ひつじくん)
    これはあるフリースから4000本の繊維を取り出し、機械にそれらの太さを読み込ませた検査結果です。左が悪い例で右が良い例なのですが、何が違うかお気づきになりましたか?

     

    (汐)
    山がなだらかなグラフと、狭い範囲で急な山になっているグラフですね。なんでしょう・・。

     

    (ひつじくん)
    フリースの繊維は、細いものと太いものが混ざり合っています。実はこれ、2つとも平均すると同じ数値なんです。
    良い例では、同じ平均繊維の太さでも細いものから太いものの幅が狭く、悪い例では、なだらかな山になっていますよね。それでも同じ平均繊度(マイクロン)です。

     

    (汐)
    なるほど!それでも、どちらも同じマイクロンの商品としてお客様の手に渡っていくわけですよね・・。

     

    (ひつじくん)
    ウィントンウールをはじめとする「良い例」などの「分布の幅が狭い」ものは同じ平均マイクロンでも手触りが柔らかいのです。
    悪い例では平均が同じでも太い繊維も混じっているので、どうしても固く感じる部分が入ります。
    そのため、全体として「ん?同じ平均繊度(マイクロン)なのに、こっちの方が柔らかいわ。こっちは固いわ。」ということになります。
    ウィントンウールは分布が平均15.5マイクロンなので、30マイクロンを超えるような繊度(マイクロン)の繊維はまず入っていません。柔らかさを極めているのがウィントンウールだと思います。

     

    (桜)
    先に固いというイメージがついてしまうと、(分布の狭い方のグラフのような)本当に柔らかい生地が見過ごされてしまう可能性もありますよね。

     

    (ひつじくん)
    昔、ザ・ウールマーク・カンパニーが、日本でも活動していたころ、研究所の人に聞いたことがあります。
    「一般的に日本人、特に女性はこれら繊維の分布の中に、30マイクロンを超える繊維が5%以上、入ってくるとチクチク感じる」のだそうです。日本の女性が世界で一番、チクチク感に敏感らしいですよ。

     

    3. どうして「ウールはチクチクする」?

    (汐)
    そうなんですか!
    確かに、多くの人が「ウールはチクチクする」と感じていると思いますし、固定概念として定着してしまっている面も否めません。

     

    (ひつじくん)
    ウールは、コットンや合繊などに比べて、製品となって消費者の手に渡るまでの工程が長いので、どうしても価格が高くなってしまいます。
    しかし、「量を売るためには、価格も安くなければならない。もっと安く、もっと安く。そしたら、量が売れる。」ということで、太くて安いウール原料を使ってきました。
    相場が上がっても、値上げせず同じ値段でないと売れないので、また少し太めで安い原料を使うことになります。その結果、ゴワゴワしたチクチク感の出る30マイクロンの繊維も入ったウールを使ってきました。
    その繰り返しが、消費者に「ウールってチクチクする。」という感覚を植え付けてしまい、ウール製品を買わない理由として、(その高めの価格よりも)チクチク感を挙げる方が多くなってしまっています。

     

    (汐)
    なんだか悲しい気持ちになりました・・。ウール原料の価格が変動し、上がってしまうと大変なことですね。

     

    (ひつじくん)
    例えば、化学繊維(合繊)なら計画的に生産でき、気候に左右されることもありませんが、ウールは生き物なので干ばつがあると餌がなくなるなど、天候や土壌によって大きく左右されてしまいます。
    牧場で育て毛刈りし、競売にかけられ製造業者の手に渡り、洗いや加工を経てようやく紡績となりますが、ここで工場から出てきた合繊のスタートラインと同じくらいというところでしょうか。そこから生地となり縫製され衣服などになりますから、すごく手間がかかりますよね。
    また、製造面だけでなく原料の移動だけでも時間がかかります。(イギリス産の羊毛原料は日本に来るだけで2ヶ月かかります。)

     

    (汐)
    たくさんの手間を積み重ね、原料も世界を旅して私たちの手元にやってくるんですね。本当に“あたたかい”素材ですね。

     

    (ひつじくん)
    自然のものなので年によって太さにバラつきがあり、(安定して細い色をつくれる合繊に比べると)「高い割に柔らかくないじゃん」という印象があるのかもしれませんが、ウールには合繊で再現できないほど素材の魅力が詰まっているんです!

     

    4. ウールは湿気を吸う?!

    (ひつじくん)
    ちょっと実験をしてみましょうか!こちらをご覧下さい。
    これは、「ウールは湿気を吸う」ということがよくわかる実験です。
    二つのガラスケースを用意しました。片方にはウールのカーペットを、もう片方には木の合板を入れます。そこに、コップ一杯分の沸かしたお湯を置いてみます。
    当然、湯気(湿気)でどちらの水槽も曇りますよね。湿度計はどちらも82%を指しています。ちなみにお湯を入れる前は、ウール、木ともに42%でした。

     

    (汐)
    素材の違いだけで、カメラ越しでも見られるような変化が表れるんでしょうか・・。

    (汐・桜)
    あれ?右と左で全然ちがう!


    (熱湯入りカップを置いた直後は、両方ともガラスケースが曇りますが、30分も経つとウールが余分な湿気を吸収してしまいます。)

     

    (ひつじくん)
    曇り具合の違いで一目瞭然ですが、木の方が湿度85%に対し、ウールのカーペットは75%になっています!
    合板の方も(湿気を吸わない訳ではなく)重量の2%は水分吸うのですが、ウールはそれをはるかに上回る20%も水分吸うので明らかな違いが表れています。

     

    (桜)
    こんなにはっきりと違いが出るんですね!

     

    (ひつじくん)
    これは、皆さんが日頃生活しているお部屋を模したものと考えてください。
    また、皆さんが毎日寝ているベッドの中(寝床内気候といいます。)、さらにはみなさんの来ている衣服ででも起こっていることです。(衣服内気候といいます。)
    私は以前、合繊の毛布を使っていました。入ってすぐは暖かくて良いのですが、朝になると毛布を蹴とばしてしまっていたんです。
    というのも、人間は寝ている間に200㏄の汗を掻くのですが、合繊は湿気を吸収しないので蒸れてしまい、その不快感によって寝相が悪くなってしまっていました。
    そこで、ウールの毛布に変えたところ、汗を吸って快適に朝まで快適にぐっすりと眠れるようになりました。

     

    (汐)
    睡眠の質の改善としてもそんなに効果があるんですね。私の使っている毛布はどうだったかな・・家に帰ったら見てみます!

     

    (ひつじくん)
    その他にも、ウールの表面はスケールと呼ばれる鱗上になっていて、水気をはじく性質があります。じめじめして蒸れてくると、鱗がひらいて水分(湿気)を吸収する一方で、水を弾くという面もあります。
    また、水分を多く含むため燃えにくいという特性も持っています。

    (桜)
    水はスイスイと弾かれてしまいますね!それでいて、湿気は吸い込むなんて素材が生きているみたいです。

     

    5. 今使っている化粧品や着ている衣服、なんの素材?

    (ひつじくん)
    実は、羊の油は保湿剤として使われていて、リップなどにも入っているんです。石油由来のものは発がん性分があったりして危険かもしれませんが、羊の油はそういった心配がありません。
    現地の見上げるようなムキムキの体つきの羊職人(毛刈りする人)さんと握手すると、想像もつかないくらい、赤ちゃんみたいに手がすべすべだったりすることがあるんです(笑)。
    そういうとき特に、羊というのは人にとって相性の良い存在なんだと感じますね。

    (汐)
    本当ですね。本日お話しをお聞きして、地球に存在する生き物としても共生ができている素材であることをすごく実感しました。
    日常生活にも紛れ込んでいる羊ですが、ご家庭でもウールをもっと身近に感じていただけるような方法があればいいなと思うのですが・・。

    (ひつじくん)
    直接素材に触れていただくことで、ご家庭でも楽しみながら素材について理解を深めていただけると思います。
    例えば、スーツとセーターでは同じウールでも感触が全然違います。さらに、ナイロンのジャンパーならどうでしょうか?どこがどんなふうに違うのか、考えて言葉にしてみるのも意外と学びになると思います。
    また、いつも着ている洋服についているタグを改めて見てみるのも良いかもしれませんね。

     

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    今回のインタビュー中にも出てきた「ウィントンウール」を贅沢に使用したウール100%のストールです。ウールに対する既存のイメージから解放されるような、もちもちとした触感をぜひお試しください。

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